vol.12

花鳥風月vol.12

INTERVIEW 1

 茜色に包まれる、癒しの時間 
  -小澤則子さん、甲斐恵子さん、戸川真佐子さん 茜子工房


 

INTERVIEW 2

伝統が繋げていくもの、漆に託された日本の心
-渡邉和子さん 株式会社Duco(ドゥーコ)代表取締役

 

自然素材住宅のコラム

日本伝統の家造り、強さの秘密大解剖

INTERVIEW 1 茜色につつまれる癒しの時間

茜染め 茜子工房

 自分のこと、大切にしていますか?

 

 

何かと気ぜわしい現代社会、働き者の日本人。

集団社会の中で生きるために、組織のためや人のために尽くすこともあります。

しかし、そのような生活をおくる中で、「あれ?自分のために生きていない」なんて思うことも。

感じなくても無理をしすぎて病にかかったり、いつの間にか自分をないがしろに…。

結婚、出産、離婚など人生経験を経て

「自分の幸せが社会の幸せの基本だということに気が付いたの」

とおっしゃるのは

茜子工房(あかねここうぼう)の方々。

 

そこには気負いのないやわらかい笑顔と穏やかな空間がありました。

 

 

茜染め 茜子工房

 茅ヶ崎の1号線道路から少し横道に入ったところにある一軒家。そこでは定期的に茜の草木染め(茜染め)ワークショップが開催されています。

茜染めを主催しているのは茜子工房という女性3人グループ。茜染めを通して、手作りの良さと自然素材の良さを伝える活動をしています。茜子工房は結成して1年ですが、ワークショップは満員になることも多々あります。その特徴は“肩の力の抜けた自然体の笑顔”。自然の素材が作り出す「茜色」に包まれながら、ゆったりと流れる染めの時間。その中で完成をみんなで喜び、自然と笑顔がこぼれます。

そもそも茜染めとは・・・

茜染め ふんどし

 日本での歴史は長く、平安時代の染織物からも茜で染めたものが発見されています。茜の赤色は日本の象徴である日の丸を染めるのにも使われていました。さらに、薬用として利用された歴史もあります。止血、浄血、通経、強壮など血液にまつわるものが多いのが特徴です。加えて、魔除けとしての利用も。着物の下に着る腰巻や赤ちゃんの産着などは、茜で染められてきました。茜染めの色、それは日の丸が象徴する太陽や血液のような、自然や生き物が作り出す赤色です。
それでは衣服としての茜染めは、人にどれほど影響力があるのでしょう?
衣服は触感や色彩を通して人と繋がっています。生活の基礎である衣食住。その中で「衣」は時間で考えると一番繋がりが長いものです。さらに衣服の色は、「皮膚には色を知覚する機能が備わっているのではないか?」という見解があるほど、人に多方面から影響を及ぼします。

茜色につつまれて

茜子工房 茜染め 茅ヶ崎

 人と繋がりが深い「衣」。その衣を茜染めすることによって人はどう変わるのか。
「私は綺麗になったって人から言われます」と茜子工房の甲斐さん。
そんな茜染めのパワーの秘密を探りにワークショップに参加してきました!

茜染め ワークショップ

茜染めは乾燥した茜の根を煮出すところから始まります。じっくりと煮出していると、鍋は徐々に鮮やかな茜色になり(写真①)、部屋にはハーブティーのような茜の香りが漂います。別鍋に触媒としてミョウバンを入れた液を用意し(写真②)、布を浸しておきます(写真③)。浸した布を茜の鍋の方に入れます。そこからまた温度調整しながら(写真④)じっくりと煮込み布を染め上げていきます(写真⑤)。
この自然素材と向き合う空間は自然と人の織り成す時間。そのゆったりとした茜色の時間に包み込まれていきます。茜色、それは太陽色、血の色、子宮の色。それは太陽が育む生き物の生命を感じさせます。茜色に包まれる空間にいると、人間社会の中ではなかなか感じることのない自分の中の生命を感じます。自然と人が織りなす心地よい一体感の中、茜染めは完成され、参加者同士で完成を喜び合いました。茜の色の美しさ、奥深さから自然への感謝の気持ちが湧いてくる、とても楽しい時間でした。
 

茜染め 茅ヶ崎 茜子工房

茜子工房の3人が出会ったのは「アロマココロ」(3ページ下方に説明)で行われた小澤さん主催のヘナ会でした。顔を合わせているうちに意気投合。3人が茜染めのワークショップに参加したところ、その楽しさ豊かさを3人が共感。楽しんで茜染めを続けている内にその世界に魅せられ、茜染めの恵みを分かち合いたい気持ちが高まり、茜子工房を立ち上げたそうです。「茜染めしている時のワクワク感、染め上がった時の新鮮な喜びが毎回あります。なにより私自身茜色が大好きなんです。言葉に出来ない色の力を沢山持っています。それを日々感じています」と甲斐さん。

3人が歩んできたそれぞれの道のり・・・

茜子工房 甲斐さん

甲斐さん


手荒れがひどく真冬は特にガサガサに。手荒れには石鹸がいいと聞き、試してみると改善。それをきっかけに自然派の商品への関心が高まりました。その関心から自分たちが利用する生活用品が環境を汚染することや人の体に害になることなどの問題点を知ることに。人のため社会のために自然派の生活用品や食品を普及しなければと、組織のボランティア活動に参加。自分自身の身体や家庭を顧みず、熱心に活動しました。その生活を続けていた結果離婚、そして体調を崩し入院。このような経験から、組織のために自己犠牲することに疑問を感じ、自分の幸せが社会の幸せの基本だということに気が付きます。その気づきで自分というものに関心が向いていた時、カラーセラピー(オーラソーマ)に出会いました。現在では、自分自身を大切に自然の一部である心地よさを感じながら暮らせるように。現在はカラーセラピストとして活躍。茜染めは、茜色という色がもつ可能性にも関心があります。

茜子工房 小澤さん

小澤さん 

以前、勤めていた会社近くにアロマオイルのショップがあり、職場で心労を感じた時、その植物から抽出される天然オイルの癒しに興味を持ちました。薬で病気を治すのに元々抵抗感があり、アロマオイルによる自然の治癒力(アロマテラピー)にどんどん魅かれていきました。その後、セラピーの世界に興味を持ち離職。セラピストとしてヘッドスパをしている時、男女共に髪や頭皮の状態がよくないことに気づきました。近所の自然食品店で、シャンプーを塗られたラットの毛がひどく抜け落ちた写真をみて、合成シャンプーの成分が人間の体に悪影響を及ぼし、髪や頭皮を不健康にしていることを知ります。自然素材のヘナで白髪をぼかしたり隠したりするが髪にもいいことを知り、それを広めたいという思いで、現在「ヘナ会」を開催しています。元々根底にものづくり(縫い物)や自然のものが好きというのもあり、茜染めにも参加。
 

茜子工房 戸川さん

戸川さん

前の旦那さんが結婚前から精神的な持病を持っていて、薬に頼らず生活ができるように一緒に努力しているうちに、自然療法のセラピーにも興味を持ちました。その当時は持病を持った旦那さんが家に入って主夫をして、戸川さんが家庭を養うために、建築業界で働いていました。仕事で新建材などを扱う現場に入るようになると、毎回身体を壊すように。それからは、他の場所でも化学物質にも反応するようになりました。妊娠すると色んなことにより敏感に。食品の添加物など『食』の安全も気にするようになりました。更に、生活に密着した分野の『衣』にも関心は広がりました。お子さんが4歳の時、旦那さんと離別。両親を介護するため、仕事を辞めて主婦に専念。
20年以上フルタイムで働き、育児をしながら介護も。人に甘えず頑張り続けて疲れた心を癒すため、セラピーに参加。その大きな癒しに救われ、自分もセラピストになろうと志しました。その矢先、山登りで手を負傷。自分はセラピーを施す側ではなく、場所を提供する方に回ろうと決意。現在は、自宅の一部をセラピー&コミュニティースペース「アロマココロ」として開放しています。
 

幸せの基本

自然には人を癒す包容力があります。「四季折々の植物と触れ合い、自然の恵みを分かち合う楽しさ。自然とふれあう時間が充実すればするほど本来の自分に戻れ、豊かさを感じています。毎日が、幸せ〜楽しい〜美味しい〜みんな大好き〜みんなありがとうっていう感じです♪」と戸川さん。自然界の生命の繋がり。繋がりの中に自分の生命も感じることで、命の広がりや豊かさを覚えます。その広がりに自分が解放され、喜びの感情も目覚めます。「茜染めを通して、心を緩めてほしい。自分自身を開いて、大切にすること。茜色を身に着けることで自分を慈しむ感覚が沸いてくる。何でも受け入れる受容性を自分自身が持って開いてって欲しい。生きることが素晴らしいこと。子供のころ感じていたわくわくする感覚、楽しむ感覚を取り戻してほしい」と甲斐さん。自然の包容力の中で、自分を受容し感情に素直になることで、より今を楽しめるように。「茜染めも多分一人でやっても喜びはあると思うんですが、仲間やお客様と一緒に、ワイワイ出来栄えを褒め合ったり喜んだりすることがハッピー倍増なのかなと思います」自然の恵みは人を繋ぎ、喜びを共有するとその喜びや豊かさは相乗効果していきます。
健やかな心の母体に元気な胎児が宿るように、人間社会も健やかな人しか人を健やかにすることはできません。「自分の幸せが社会の幸せの基本だということに気が付いたの。今度は今までと別のやり方で社会と係りたい。報酬は喜びや豊かさを提供させていただいていることのご褒美。儲けに走ることなく、恵みを与えてくれたものに感謝して循環していきたい」と甲斐さん。
茜子工房の3人の間にも分かち合いや支え合いを感じます。静・動・観というような役割のバランスを取りながら友達同士のような気兼ねのない意見交換をされています。「3人の関係性が大切な基本。遠慮のない意思疎通ができる関係性でいたい」と小澤さん。
命を繋ぐ茜色。茜色に包まれる世界の中で、日頃のしがらみから離れシンプルに自分の命を感じる時間。そこにある自分の命の声に素直になることは自然体の生き方。自然体で生き生きと暮らせれば、与えられた命に心から感謝できます。そして自分や周りの環境、人に対しても自然と愛が生まれます。その愛が人をそして社会まで幸せにしていくのかもしれません。茜子工房の方々がおっしゃる、「一人よりみんなで、恵みを与えてくれたものに感謝して、自然の恵みを分かち合う」それは、愛が人を幸せにする循環型社会の形。その形を茜子工房で感じました。

INTERVIEW 2 伝統が繋げていくもの、漆に託された日本の心

 

 

 親から子へ受け継がれるもの。

時にそれは物であったりします。

受け継がれる物には、それを通じて受け継いでいきたい心があります。

日本にはそのような「物で伝える文化」があります。

日本で受け継がれるもの「漆」。それでは漆に託されている日本人の心とは何でしょう?

今回は、漆職人として作品を作る傍ら、

漆を通して日本人の心を次世代や世界に向けて発信し、

繋げていく活動をされている渡邉さんにお話を伺いました。

 

 

漆 ryuks 渡邉和子

渡邉和子さん

株式会社Duco(ドゥーコ)代表取締役 

漆創作家、漆プロデューサー。

国家検定1級塗りたて技能士。

Rhus(ルス)プロジェクト代表。 

Rhusプロジェクトとは

インテリアコーディネーターや作家さんなど

多分野とのコラボで漆の可能性を創造する活動。

漆とは・・・

日本には、1万年以上続く漆の歴史があります。

日本の心が造り出し、伝えてきた伝統工芸品の一つです。

また、世界的には国際用語で漆器‘japan,と呼びます。

それは世界から見て、日本を代表とする素晴らしいものだということを意味します。

 

 

漆 木べら

 漆とは、漆の樹液から造られる天然樹脂塗装材です。硬化する性質から接着剤としても使われてきました。熱や湿気、酸、アルカリにも強く、腐敗防止、防虫の効果もあります。漆の樹液を原料にして精製された液体。その液体は塗った後に「乾燥」し、丈夫な塗膜を作ります。「乾燥」とは、いわゆる水分の蒸発によるものではありません。主にラッカーゼ酵素の働きによる化学的な反応によって硬化することです。この「乾燥」の工程には5段階あり、適当な温度と湿度が必要になります。また漆の蒔絵は美術品として扱われます。蒔絵とは漆で絵を書き、その上に金や銀などの金属粉を「蒔く」ことで器面に定着させる技法です。
 

『素材と会議できる民族』 日本人

生漆

伝統とは、その土地の気候風土に根ざし、その土地で暮らしていくために生み出され、次世代のために継承されてきた知恵です。
漆塗りも例外ではありません。

漆Duco

渡邉さん「工業的な材料は誰がどこで作っても同じものだけど,自然素材は同じ人が同じようにしても、国(環境)を変え れば違うようになる。さらに、漆は自然素材の中でも頑固」。漆は乾燥の全工程において漆を取り巻く環境条件(気圧や天気など)の微妙な変化にも影響を受け ます。つまり全工程、最初から最後まで人が漆に向き合い、漆に沿って絶妙なタイミングで関わり合わなければ、良い漆器はできません。それが漆の頑固たる所 以。漆とは、人が漆を理解し、漆に合わせて関わり合うことで得られる自然からの恵み。そんな漆を使いこなし、1万年以上利用してきた日本人。渡邉さんは 「日本人とは『自然素材と会議できる民族』」と表現します。例えば、日本を代表する日本庭園や日本食などは、人と自然とが共に生き、その移ろいを楽しむも の。移ろいとは四季であったり素材の旬だったりします。それは人が自然素材を上から支配して自由に扱うのではなく、変化を受け入れ、同じ目線でそのものに 配慮しながら(=会議)得られるもの。日本人のそういった姿勢や考え方が‘japan,と言われる漆器を創り出しました。

物によって、人の生活も変わる。

漆器 蒔絵

1万年以上受け継がれた漆を通し、自然とも、日本の伝統とも、向き合ってきた渡邉さん。その経験から「全部はぐるっと廻っている。自然も仕事も全部。自分だけいいとこ取りはできない」とおっしゃいます。次に繋げず、自分だけで留めておくと自分の所にも戻ってこなくなる。例えば気持ちについてもそれは言えます。「素敵な漆器を買うということは、多くの場合、その素敵な漆器で人に何かしてあげたい気持ち。その漆器を受け継いでいくことで次の人にも楽しんでもらえます。そうやって気持ちは伝えられていきます。

漆 チタン

このような『物で伝える文化』が日本にはあります」。日本の『物で伝える文化』、例えば家で受け継がれる『しきたり』。『しきたり』の中で使われる漆器は、この行事にはこの漆器を使い、この順番で使うというように言い伝えられます。「そのようなしきたりを介して伝承されるのは、生活リズムであったり、漆器をどう扱うかによって物の価値観や考え方だったりします」。さらに、物で受け継がれるアイデンティティーもあります。

漆 シャンパンフルート

このような『物で伝える文化』が日本にはあります」。日本の『物で伝える文化』、例えば家で受け継がれる『しきたり』。『しきたり』の中で使われる漆器は、この行事にはこの漆器を使い、この順番で使うというように言い伝えられます。「そのようなしきたりを介して伝承されるのは、生活リズムであったり、漆器をどう扱うかによって物の価値観や考え方だったりします」。さらに、物で受け継がれるアイデンティティーもあります。

漆 ゴルフクラブ

例えば大黒柱、「大黒柱はこれが家というシンボル。何十年物の立派な木を柱にしていて、これが家を支える上で重要で貴重な物なんだという思いが込められています。それを大切に子供に手入れさせることで受け継がれる価値観。大黒柱というシンボル的なものは『自分は何が原点でどこから来たのか』というアイデンティティーを生みます。そういったシンボルがないとアイデンティティーは薄れていってしまいます」。日本人の『物で伝える文化』、その物を通して伝えられるのは日本人の生き方。「日々使う物によって、生きている人の生活も変わります。その生活習慣を通してそこに生きている人の考え方も変わります。物によって変わるものは、目に見えないものを含め、山ほどあります」。知らず知らず受け継がれてきた物の中にも、自然と共に生きる日本的なものの考え方が根付いています。日本人が大切に培ってきた文化も、次世代に繋がらなければ途絶えてしまうもの。文化が無くなることはそれを取り巻く自然環境にも影響していきます。

自分の根っこさがし

漆 渡邉和子

帰国子女である渡邉さん。自分の根っこである日本人としてのアイデンティティーを探し、漆職人という職業にたどり着きました。そこにいたるまでの経緯とは?

漆器 ガラス

日本に根付いた「漆文化」。そんな漆に興味を持ったのは、渡邉さんがメキシコに住んでいた幼少の頃。月に1度、和食屋さんが移動販売に来ていて、その日本食を食べるのを楽しみにしていました。海外に住む渡邉さんにとって日本の物は貴重で特別な物。また名家の生まれで、おままごとに使っていたのは本物の漆器。その貴重さや本物との触れ合いの中で、日本の伝統工芸品への関心は生まれました。その後、11歳の時メキシコから帰国。そこで渡邉さんを待っていたのは日本語と日本人の集団主義の壁。日本では個人を伸ばす教育ではなく、集団のレベルに追いつかせ、集団に合わせることが教育の目的。渡邉さんは日本語が流暢でないため、1学年下からのスタート。さらに授業は日本語で説明されるため、美術や体育などの絵で理解できる科目以外(国語や数学など)は学ぶチャンスを失います。生活面でも集団性を重視する日本、集団の中で目立たずに居られるかがいじめられないためには重要。スペイン語を話すと目立ってしまうので、喋らないようになりました。

漆工房duco 渡邉和子

自分の居場所を見つけられず寡黙な生活を続けていると、スペイン語を忘れてしまうことに。それは自分が2つに引き裂かれる感覚だったそう。スペイン語を思い出すため、大学ではスペイン語科を専攻しました。そうすると、1か月でスペイン語を思い出します。大学を卒業する頃、今後の生き方を決めるためスペインへぶらり旅に出ました。その旅で、母国にプライドを持つスペイン人からよく日本について聞かれました。『日本と言えば茶道、華道、着物…。だけど今着物着て生活してる?それでは今の日本人とは何だろう?』自分の中の日本人としてのアイデンティティーがないことで、問題にまたぶつかります。それがキッカケとなり、自分の日本人としてのアイデンティティーを探すため、昔から関心のあった漆器の世界に飛びこみました。

漆工房duco渡邉和子

修行するうちに、漆器の質の高さや、漆器を創造する日本人の考え方、自然素材に対する姿勢は、世界に誇れるものであるということに気が付いたのでした。しかし、漆産業は現代では失われつつある産業の一つ。1万年以上続いた漆文化は、日本伝統のシンボルとも言えます。そのシンボルが失われつつあること、それは伝統工芸を通した日本人の生き方の伝承をも失われつつあることを意味します。

日本的な次に繋がる仕事をしたい

漆 海外

「日本人が日本のいいものを捨てちゃってる。私は日本の大切な心を漆に託し、次に繋げて廻るような仕事の仕方をしていきたい」という想いが渡邉さんにあります。その仕事の仕方は多角的。日本国内や世界に向けても漆の良さを発信されています。「漆を通じて日本的なものの考え方、ものの良さを発信し、社会に少しでも影響を与えたい」。世界的にも問題となっている工業公害、それは過剰生産、過剰廃棄によるもの。「自然と共に生きる日本的な考え方で社会が廻ればそんなことにはならない」という考えから世界に発信されています。

漆器 作り方

しかし、漆は日本ではポピュラーですが、一部の海外では無名の原石。かつて渡邉さんが日本帰国後体験したような、価値観や考え方の違いがあり、なかなか漆の良さを認めてもらえない事もありました。

漆器 漆

漆器 生地固め

漆器 蒔絵

漆 アクリル

そんな時、障がいを持った娘さんの存在が渡邉さんに勇気を与えてくれたそうです。娘さんは不可能と思えることを、その行動力で切り開き可能にする人。みん な何でそこにこだわってるんだろうという事を、持ち前の行動力で開拓していきます。その姿を見ていたら「私が諦めていてはダメだ。日本の漆は本物。その良さは伝え方を考えれば必ず届き、道は切り開かれる」と勇気づけられたそうです。

漆duco 渡邉和子

事の捉え方や価値観はその土地特有の物。世界のから見たら1点に過ぎない。世界の価値観は多様。ある一定の場所で幸せだったら問題はないけど、考え方が合わなくて居心地悪く生活しているんだったら、その土地を離れ、違う場所でどっぷり生活してみる。そうすると価値観や考え方に幅が出る」それは渡邉さんがメキシコ、日本、スペインなどその他各国での生活経験から生まれた考え方。その価値観の幅を活かし、各国の文化、歴史を客観的に分析、世界各国へ多様なアプローチをされています。

 

日本人の偏見や価値観の壁に自分のアイデンティティーを見い出せず、自分探しの旅へ。漆の中に息づく日本の心に自分のアイデンティティーを見出しました。昭和から平成の間に起ったこと、それは日本の循環型社会から消費型社会への変化。「それを何もしないで見ているってことができない」と渡邉さん。漆産業の継承は、自然と共に生きる自然環境に根付いた生き方の継承。漆を介した渡邉さんの生き方は、より日本人らしい生き方でした。

 

自然素材住宅のお宅訪問 日本の家づくり~安心して暮らせる家

日本伝統の家づくり、強さの秘密大解剖

手刻み のみ

家の造り方の歴史、現在主流の機械化工法は実は短く約40年。それ以前の木造家屋は手刻み(※1)で建てられていました。手刻みはそれほど長い間、日本の手が引き継いできた伝統工法です。
手刻みの特長は家の骨組みの強さ。骨組みにおいて大切なのは木材の接合部分。接合部分は力を伝え合う、重要な役目をしています。大きな負荷がかかる部分であるため、その造りの違いによって家の強度が変わります。その接合部分の一つである『継手(※2)』。今回は手刻みでつくる継手の強さについて解剖していきたいと思います。

 

※1「手刻み」とは、大工が木材に付けた墨に沿って、手で刻んでいく技法。

※2「継手」とは、家を建てる際、長い木材が必要になります。そのため、材と材を結合して長い材をつくります

その時の材と材の結合部分のことを建築用語で『継手』と言います。

手刻み力の分布

継手には、接合した時に抜けたり、よれたりしないような細工があります。今回は材にかかる外からの力をA,B、Cと表記して、どの細工がどの力に対応して耐えるのかを下記で説明します。
今回は2種の
(ⅰ)目違いホゾ付き鎌継ぎ
(ⅱ)金輪継ぎ
の手刻みについて解剖していきます。

目違いほぞ付鎌継ぎ

A方向:②材の先端に○A突起加工することでA方向の力 に耐えることができます。

B方向:①材の○B1突起と②材の凹みを組むことにより、 Bの力に耐性がでます。この加工により材が①材 が開くのも防ぎます。さらに②材の○B2(「②材 を左から見た写真」参照)下部中央に突起をつくる ことによりBの力やねじれにも耐性がでます。

C方向:②材に○C突起があることで、C上方向からの力に 耐性があります。C下方向からの力には耐性がありません。

金輪継ぎ

A方向:継手の中央○Aに栓をすることで、①材の凹みは②材の突起と組み、同様に②材は①材に組まれます。それによりAの力に耐性がでます。

B方向:①材の○B1突起が②材の凹みに組まれ、②材の○B2突起が①材の凹みに組まれることで、B方向の力に耐性があります。

C方向:②材の○C突起が①材の凹みに組まれることでC方向の力に耐性があります。裏側も①材の突起が②材の凹みに組まれることで、C方向の力に耐性がでます。

 

地震の多い日本で進化してきた手刻み建築の文化。

大工は場所、材質、材の形状等で結合部分(継手など)の形を選びます。

手刻みは単なる形の継承でなく、木という材質の特性を利用して、

反り割れなどの木の特性を抑え、金属を使わずに木を組む事で家全体の強度を上げる、家づくりの総合伝統技術です。