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映画「蜩ノ記」を観る。死を思い、日々を生きる

 

11月のとある日、見たい映画があり、息子と共に映画館に出かけました。

 

映画の名は「蜩ノ記(ひぐらしのき)」。葉室 燐(はむろ りん)氏による連載小説だった原作は、

2012年に第146回直木賞を受賞しています。そして、故・黒澤明氏に師事し、「雨上がる」

「博士の不思議な愛した数式」等の作品で知られる小泉尭史監督と黒澤映画を支えてきた

名スタッフの元で本映画が製作され、10月より上映されています。

 

 

映画では、主人公の戸田秋谷を役所広司さん、秋谷の妻・織江を原田美枝子さん、

壇野庄三郎を岡田准一さんが演じています。

他のキャストも含め、穏やかな中に込められた感情表現が胸を打ちます。

原作を昨冬読み、涙が浮かぶほどに感動した本作。映画もぜひ見にいきたかったのですが、

どうせなら、小学校6年の息子にも見てほしいと思い、彼を誘い、一緒に行きました。

 

 

あらすじや見所は、映画の作品解説がわかりやすいので、そのまま引用します。

「主人公は、ある罪で10年後の夏に切腹を命じられ、不条理な運命にある戸田秋谷。

彼は、いよいよ3年後に迫った切腹までに藩史の編纂を仕上げるよう命じられ、

その作業の過程で、藩の重大な秘密を握っていた。そして、彼の監視役として派遣される

壇野庄三郎。物語は、秋谷に不審を抱いていた庄三郎が、切腹に追い込まれた事件の

真相を知り、彼の人としての気高い生き方に触れて成長する師弟愛のドラマ、

秋谷とその妻・織江との暖かな夫婦愛や家族愛、庄三郎と秋谷の娘・薫との初々しい恋、

そして人間同士の崇高な絆を描きます。」

 

 

この作品の設定で出色なのは、既に主人公の切腹の日が決められてしまっていること。

若侍の庄三郎が秋谷のもとに遣わされた時には、秋谷に残された時間は三年ばかりでしたが、

秋谷は怯えたり、塞ぎこむ様子を微塵も見せず、自暴自棄になることもなく、日々を穏やかに、

謙虚に、やるべきことを実践し、家族や村の人々と仲睦まじく暮らしています。

 

それは、秋谷が誰にも恥じない生き方をしているという自負があり、死までの刻限を感じながら、

自分の使命を果たし、するべきことをしっかりと日々実践していこうとする、真摯で、清廉で、

潔い姿勢なのだと感じました。命尽きるまで、家族を大切にし、子や弟子のような若者を

しっかりと育て、村や藩のあるべき方向のために尽力する。素晴らしい生き様です。

 

 

ラテン語で”memento mori”(メメント・モリ)という言葉があります。「死を思え、死を忘れるな」と

いう意味の言葉です。いずれ来る死の時を思い、恐れ、怯えるのか、それとも享楽的に過ごすのか、

それとも死までの間の日々を大切に生きるのか。それは、きっと私たち自身に委ねられています。

私自身が一年後、あるいは一週間後や明日亡くなるとしたら、今日何をするべきか、どう生きようかと

考えると良いのかもしれません。

 

今年も師走を迎えました。「蜩ノ記」を時折思い出しながら、今年を振り返り、来年を展望し、

そして、日々を大切に過ごしていこうと思っています。

 

 

 

written by H. Osanai