vol.3
INTERVIEW 1
個人農業家としては数少ないJASマーク認定を受けている薄氏。
有機農業家 薄 剛夫(すすき たけお)さん
INTERVIEW 2
こだわりの天然酵母パン
無添加酵母パン アイヅチ パン職人 長島 和裕さん
INTERVIEW 3
自然素材だけを使ったセルフビルドを行う
スイスで生まれ育ったハンス氏。
INTERVIEW 1 オーガニックを極める |
個人農業家としては数少ないJASマーク認定を受けている薄氏。 その無農薬有機栽培への道のりと農業哲学に迫る
有機農業家 薄 剛夫(すすき たけお) 愛川在住 すすき有機菜園 薄 剛夫 神奈川県愛甲郡愛川町中津 JAS有機認定事業者 愛川町農業委員会会長 |
無農薬のおいしい野菜を届けたい |
愛川生まれ。以来67年間愛川で暮らす薄氏。厳しい審査を通り抜け、神奈川でも数少ない、JASの有機認定を受けた農業家だ。
もともと、大学卒業後は自動車部品関連の営業マンとして、日本全国を飛び回り、その手腕を企業で十分に発揮されていた。
農業の道に足を踏み入れたのは、農業家だったお父上を亡くされた後の、ご自身の定年退職後だという。
もともと、大学卒業後は自動車部品関連の営業マンとして、日本全国を飛び回り、その手腕を企業で十分に発揮されていた。
農業の道に足を踏み入れたのは、農業家だったお父上を亡くされた後の、ご自身の定年退職後だという。
有機JAS 国際基準の資格を持つ農林水産省の第三機関。
JASの認証によって初めて本当のオーガニックとして認められ市場流通が可能となる認定
有機JAS認定を受けるまで |
「とにかく、どんな野菜も全て無農薬で作り、安心して皆さんに食べて貰いたいので、作った野菜には『無農薬栽培』と表示したいのです。しかしその表示をする為には、有機栽培のJAS認定をとらなければならない。これがかなり大変な作業になります」。
無農薬栽培の表示をするには、過去3年間、その畑で、農薬や化学肥料を一切使っていないということを証明しなければならない。
まずは確定申告の記録から証明しようとしたわけですが、今度はその使用した油かすにも、添加物が一切使われていないことを証明しなくてはならない。
そういうことの一つひとつを、証明して、あのJASマークというのは認定されるのです。
その作業だけでも大変だったはずだがそれでも薄氏は消費者に安心して食べていただけるよう認定を受けたのだ。
世の中には、自称で「オーガニック」を名乗っている野菜も市場に出回っている。
しかし、それは有機基準に満たない栽培方法や、農薬を使用しながらも「オーガニック」と謳っている可能性もぬぐいきれない。 また本当に無農薬であっても、その生産物の保管や搬送段階で何かしら汚染されていても分からない。
つまり「自称」の場合は、生産者や販売者側で情報を操作している可能性があるわけだ。
薄氏が戦ったのは、まさにこの「安心と信頼」をいかに消費者に届ける戦いであったかということに他ならない。
神奈川県では薄氏のように個人農業家で認定を受けている人は本当に数少ない。
アイガモ農法の魅力 |
薄氏の仕事ぶりは徹底そのもので水田ではアイガモ農法を行い、どこまでも自然の力を最大限に使った農法を行っている。
「同時作」 といって、アイガモ農法は、米とともに「アイガモ」という作物も生産できる効率的な農法。
アイガモ農法で活躍するのは、その年に生まれたヒナ鳥だが、成長後には鴨肉として出荷することも可能な魅力的な農法だ。
アイガモ農法のメリット |
1.水田内の害虫を好んで食べ、優れた害虫防除効果の期待
2.アイガモは、雑草は食べるが、イネ科の植物は食べないので、除草剤を使わない農業の実践に貢献
3.水田中でアイガモの排泄する糞尿は、優れた有機肥料となる
4.アイガモは泳ぎながらくちばしや足で水田の泥水を掻き回し、水田内に酸素を供給。 また水をかき回すことで、雑草の繁茂を抑える効果あり
5.稲の株元をくちばしでよくつつくため、株張りがよく丈夫な稲を育てる
6.アイガモを水田に放している間は、農薬も不要なため、水田周辺の生物が生き返るなど自然環境が復元される
草に負けることのない野菜をいかに作るか |
その他、薄氏は、愛川町の農業委員会の会長として、農地の転用・査定・認定等の仕事に従事したり、地元自治会長、また中学校での講和など、その活躍は多方面、多岐にわたり精力的だ。
今後の展開としては、日本蜜蜂の飼育をしていく方向だという。
一般に普及している西洋蜜蜂ではなく、日本古来の蜜蜂にこだわってゆきたいと、その意欲を語られた。
自然への負荷をできる限り軽くする、オーガニックな暮らしは、今や、世界中に拡大している。特に有機野菜は、安全なばかりでなく、そのおいしさが違うという。薄氏の人参も甘さ糖度が12度というから、いちごの甘さにも匹敵する糖度だ。
そのオーガニックの先駆を切る薄氏はこう語る。「農薬など必要ありません。基本、畑というのは雑草と共存でもいいんです。大事なことは、草にも負けることのない野菜をいかに作るかという、一点なんです。 作る大変さもあるけれど、販売する大変さもある。
つまり、好きじゃないとやれないですね」と。そこには徹して安心したものを届けたいという、薄氏の誇りと深い哲学がある。
しかし一番印象的だったのは、あまりにも楽しそうに畑に入って仕事をするという、 薄氏の生き方そのものであったのかもしれない。
【 有機認証 】 |
1.圃場は最低3年以上農薬を使っていない
2.有機肥料であっても化学薬品や重金属が含まれないものを使用する
3.栽培によって環境を破壊しない
4.労働条件を厳守している
5.環境・衛生管理の整備
6.上記に関する管理プログラムの制定とその実施
7.上記に付帯する全ての事項に対する第三認証機関による検査と認証及び年次更新
INTERVIEW 2 こだわりの天然酵母パン |
オープン2年で早くも遠方からのお客さんがたえない「アイヅチ」。 その共感を呼ぶ長島氏の生き方に迫る
無添加酵母パン アイヅチ パン職人 長島 和裕さん |
サラリーマンからパン職人へ |
県道65号線沿いに建つ天然酵母パンのお店「アイヅチ」。愛川町にある、長島氏のパン工房兼ショップだ。
長島氏は、自家製レーズン酵母と国産小麦を使用し亜t無添加のパンを作る事にこだわり続けるパン職人。
「僕が育った家庭は農家でお米が主食でした。しかし結婚後、妻が固めのパンをスライスし、焼いたものがお洒落に食卓に並ぶようになり、パンは食卓をお洒落にそして有意義にするものだと、日ごろから感じていたんですね。で、独立するなら、思い切ってパンをやろうと。」
そして、独学で勉強していくうちに、自家製の天然酵母にたどりついたのだとか。
開店後はしばらくするとお店のファンは、口コミで一気に拡大。
今や千葉・横浜などの遠方からも長島氏の味を求めて、お店に通う程の名店だ。
長島氏がサラリーマンから、パン職人に転職したきっかけは、お子さんの誕生だったという。
「子供のそばにいたくて、仕事をやめて、家で働こうと決めたんです。」
それまではハードなサラリーマン生活で、なかなか思うようにお子さんと触れ合う時間がとれなかったという長島氏。
現在2年生、5歳、そして8月に出産予定の赤ちゃんの父親としての一面がある。
「小さい時期である今だけは子育てを大事にしたい。その思いから、店舗も自宅の敷地に設置し営業しています。
この子たちが大きくなったら駅前の店舗でも構わない。でも、今は、子供たちが、私たちの生活の全てです」と語る。
店の閉店時間が16時なのも子供たちに合わせて、決めたという。
その気持ちは奥様も同じ。「働いている父親の姿を見せていきた、そう思っています。
彼がいなければ生活できない。
それを実感として感じていって貰いたいですね」と奥様。
今しか出来ない子育ての時期を、どこまでも大事にして行こうとする想い。
そんな長島氏に共感し、憧れを持ち、訪れる男性客も後をたたないという。
シンプルこそがパンのおいしさ |
長島氏のパン作りのコンセプト、それは「無添加」にこだわるということ。
そしてどこまでも「シンプル」であるということ。
今や市販の食品は、添加物と技術だけで形づくられているものが多い。
しかし長島氏は「おいしいものを作るのに技術は要らないんです。
今やパン屋さんは皆どこもすごい技術でパンを作っています。
でもそんなことをせず、シンプルに作れば絶対においしいんです。
それこそがうちの理念です」と自らパン作りの流儀を語られた。
また、《自分でしか出せない味》にこだわりをもつ長島氏。イースト菌じゃなく、自家製天然酵母にもこだわりがありました。
この天然酵母は、培養し安定させるだけでも、12時間はかかる。
もちろん天然酵母は市販のものもあるが、長島氏はレーズンから酵母をおこすことにこだわりを貫いている。
そう、アイヅチの、ひとつのパンには長い時間がかかっているのだ。
無添加にこだわりぬく |
どこまでも、体に安全な無添加にこだわりぬく長島氏は、また一方で無農薬・無肥料でオーガニック野菜づくりも行っている。
手間がかかったとしても、体に優しいものを消費者に届けたいという一念が、パンと共に畑へも長島氏をかり立てた。
「今年から、畑で本格的な有機野菜の栽培にも取り組み始めました。
オーガニック農法は、もともと何年も前から取り組もうと決めていたのです。
現実は虫と草との戦いですね。
それでも無農薬にこだわったものづくりを、どこまでも目指しています」と、この新鮮でおいしい野菜も、店頭で販売。
味と安全を求めるナチュラル志向の消費者層にとても好評だ。
とても謙虚に「今年は子育てが全て。それで充分なんです」と、はにかまれるご夫妻。
しかしその幸せな雰囲気は、お子さんたちにも通じ、そして店舗の雰囲気までも温かいものにしてゆく。
まさに作り手の姿がパンのむこうに見える店。
長島氏のその温かく深い思いがお店の隅々にまで漂う、素敵な名店との出会いであった。
INTERVIEW 3 日本全国から資材を選び抜き、呼吸する家づくりを行うハンス氏のこだわりに迫る |
自然素材だけを使った セルフビルドを行う スイスで生まれ育ったハンス氏。 |
自然素材にこだわる |
横浜市の静かな住宅街にあるハンス邸。
音楽家ご夫妻のお住まいだ。
ハンス夫妻は、自分たちで一から家作りを行っている。家づくりをはじめて早3年。今も未完成ではあるが、1年前には二階の内装が完成し、今はその二階に暮らしながら家作りをコツコツ続けておられる。 最初はコンクリートの家に住もうと思っていたご夫妻。
しかしスイスに住む弟さんに、伝統工法である土壁の話を聞き、土壁の家に心が奪われた。それが自然素材の家にこだわるきっかけになったという。もちろん当初は、家作り全部をやろうとは思っておらず、土壁だけを自分でやろうと思っていた。
しかし「木材はこの産地のここ。粘土この産地のこれ」と自然素材にこだわった資材を探しているうちに「全て自分でやってみよう」と思いたったという もちろん、建築確認や中間検査といったことは建築家と共に進めている。
しかしそれ以外の作業は、大工さんに刻みを一から習って、ご自身で、とにかく一つひとつにこだわり抜き進めてきた。
厳選した素材を全国に求めて |
例えば、土壁の粘土一つとっても、全国から厳選。
愛知の三河粘土を求めては、産地まで直接赴き、実際のものを見て選び、交渉し購入するという情熱。
その後、粘土は定期的に4~6トントラックで自宅作業場まで配送して貰っているという。
「土は1トン3000円ですが、輸送料で17000円かかります」と、輸送コストはかかってしまうが、納得のいくものづくりを着実に進めている。
そして届いた粘土に、水と自ら切った藁スサを加え、混ぜたものが土壁材となるわけだ。 また、この良質の藁スサと本物の麻スサを求めて出会ったのが、大阪の北正商店の北野社長だ。
北正商店は全国の文化財の新築・修復を手がける壁スサ伝統工法のプロフェッショナル。
昨年は平城京、今は名古屋城の本丸御殿の新築に着手し、伝統を守る会社である。
北野社長いわく「普段は、文化財の仕事ばかりなのですが、ハンスの家作りへの思いに共鳴し、お付き合いさせて頂いております。
土、藁の厳選の仕方や、土壁の塗り方ひとつ取っても日本にはたくさんの種類が存在する。
その日本のバリエーションの広さを、私はハンスに伝えたかった。
我々の住む関西は文化財が多いので、そうしたものを守る立場からもケミカルなものは一切使用したくない。
その私の思いと、ハンスの家作りへの思いがきっと重なりあったのだと思いますね。」
伝統工法で課題を乗り切る |
そんなハンス邸のコンセプトは、とにかく「呼吸する家」。
しかしそこには一方で「水対策」という課題もある。自然素材しか使わないため、例えば防水シートさえ使用していない。
家作りでは、通常、外壁や瓦下の隙間に入り込んだ水を、外壁や屋根内に入れないために、施工途中で防水シートが貼られる。しかし、自然素材ではない防水シートはこのハンス邸には存在しないのだ。
「雨で、壁に少し水分を含んだとしても乾かせばいいのです。自然素材だけを徹底して使っていれば、家はすぐに乾くんです」とハンス氏。
また、窓枠さえも全てご自身の手作りだというが、こちらも通常では、ガラスと木枠の間に、水止めの為のコーキング材を施す。
しかしもちろんこちらもハンス邸では使用してないという。
ではどうするか。
ここには中世ヨーロッパの伝統工法で「石灰石」を使った自然素材のコーキングを施すことにした。
つまり呼吸する家づくりとは、昔の伝統工法という知恵の結晶であることに他ならないのだ。
人生を愉しむための家づくり |
ハンス邸。それは見事に日本とヨーロッパの伝統工法を融合させ、取り入れた知恵の住宅である。
「自分で建てればお金は少なくて家は建つ。と思ったけれど、実は慣れている人に頼めば、すぐ出来上がってしまうので、時間を考えると僕は高い」。と笑いながらハンス氏は言う。
しかし奥様は「最高の住み心地です。 呼吸している家に住んでいることを全身で感じます。それから風邪もひかなくなりましたし、夏、エアコンが無くても快く暮らせるんです。 でも、それ以上に嬉しいのは、家づくりの過程で、すてきな人たちと出会えたことですね。だからずっと完成しなくても良いとさえ思っているんですよ。」とニッコリ。
人生を愉しむための家作り。
ハンス邸の醍醐味はそこにあるのかも知れない。